未病健康学 の基礎、“生きがい”を再発見する医療・福祉社会はどうあるべきか

今井 敬喜 内科医・医学博士 NPO法人「世界福祉実践協会」理事長 NPO法人連合「世界健康長寿学会」議長
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人は父母の死、友人の死、愛する人の死を人間的に美しく見送ることで、さらにその生を充実させることができる。
“生を勝ち取る医療”にもまして“死を人間的に看取る医療福祉”もさらにまた重要である。
その中で“生と死”を直視し、その狭間より高齢化社会を自分のこととして考え、生きている以上、少しでも“生きがい”を見出せる社会の実現を各世代それぞれの立場から志向し模索する。

(原点)

2

各世代(特に実年、熟年、老年)のコミュニケーション、医療・福祉のコミュニケーション、官民産学のコミュニケーションの場を拡げ、それぞれの知識・体験がより良い感性を生み出し、社会と時代により良く生き、競合することなく、さらに新しくより良いチャレンジを育むよう、生き生きと代謝する福祉社会を目指す。

(相互コミュニケーション)

3

生活・福祉および医療の触れ合い、統合、調和に支えられる包括的全人的“地域ケア・システム”の確立こそ21世紀の高齢化社会を“生きがい”を持って生き抜く基盤である。

(地域ケア・システム)

4

高齢者を年齢のみで「老人」と決めつけて、地域(家庭)から疎外し、“粗大ゴミ”よろしく、老人ホーム、中間施設、老人病院という既存の生きがいのない閉鎖社会にとじこめる施策の劣さを知るべきである。
旧来のこの施設は、物質的側面より核分裂を余儀なくされた家庭をより一層崩壊に導くものである。
高齢化社会に備える最大の要点は、この核分裂化した地域(家庭)の時代に適応した包括的(精神的)再建であり、“良き隣人”によるその温かさの再現である。

(福祉隣組制度の復活)

5

既存の施設、新設の施設を、家庭(地域)を中心とした健全な“家庭援助システム”の一環として組織化し、医療・福祉のより良いチーム・ワークのもとに各施設の役割を適切に位置づけ、地域(家庭)と動的に代謝せしめるように「発想の転換」が必要である。

(家庭援助システム)

6

各施設は地域の人々のふれ合いの場、助け合いの場とすべきであり、一定(一部)の人々の固定化した閉鎖的収容施設とすべきではない。このふれ合いの場で、高齢化社会に対処する知恵を地域(家庭)の人々を中心として、その体験を通して、お互いに工夫し実習・修得することに主眼をおくべきである。
旧来の封鎖的収容的救護施設より開放的開発的施設への“脱皮”を試行しなければならない。

(開放的開発的施設)

7

人間はその生の終わりまで、自分の生が社会(人)のために少しでも役立っていることを確認し、さらに学び合いながら体験し、それを喜びとして生きがいを見出だすものである。
人間の寿命を金に縛りつけたり、機械に縛りつけたり、建物に縛りつけたりすることから、できるだけ開放し、家族を家庭の中で、友人を心のふれ合いの中で、人間を人間の中で、生を生の温かさの中で、自然に終息させるように心がけるべきである。

(生の温かさ)

8

高齢者を、人生の経験者・体験者として位置づけ、精神文化を世代から世代へ継承してゆく過程でその役割を付与し、その価値を死ぬまで認め、それぞれの体験をより良い意味で地域社会の改善に生かす工夫をなすべきである。

(精神文化の継承者)

9

“決めつけ型”医療・福祉に代表される、旧来の社会福祉の無気力性・自閉性・封鎖性を一日も早く脱皮し、社会の変化やニーズに敏感に対応する、活気のある動的な医療・福祉に成長しなければ、目前にせまる超高齢化社会を“生き生き”と支えることはできない。
この意味で、医療・福祉従事者は、過去の閉鎖性・偏執性を正直に反省し、新しく開放的な思考のもとに、他分野の良識とコミュニケーションをより盛んにし、互いに学び合い、人間をその生の終息まで生き生きと処遇する施策を試行し、開拓すべきである。

(決めつけ型医療・福祉からの脱皮)

10

「老い」を健全に支え、Careし、Cureするものは地域社会(家庭)を構成する人々の互いの精神的支え合いにあることを認識すべきである。
いかなる高齢者もその分に応じて地域の中でその“生きがい”を見出せるように、官民産学合体でその場づくりに努力しなければならない。

((共存共栄・相互扶助)

 しかし、問題は様々な施設・設備の増設にのみあるのではなく、それを運営する人々、および、それを利用する人々の精神構造=“物の見方”の変革こそが、最大の課題であることを自覚すべきである。

(物の見方の変革)

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