身土不二と健康長寿

20世紀、私たち人類は二つの悲惨な世界大戦を経験し、命の大切さを身をもって体験したはずなのに、未だに“身勝手な人間同士の争い”が、この地球のあちらこちらで繰り返され悲惨な殺戮が繰り返されています。“東西文明の衝突”などと勝手な理由が付けられていますが、果たして、この説明で納得・了解できるのでしょうか?万物の霊長を自称するヒトがたどり着いた結末にしては、あまりに自己中心的過ぎではないでしょうか!

今井 敬喜 内科医・医学博士 WCIグループ ナチュラルクリニック銀座 院長 一般社団法人 日本がん健康サポート協会

この地球上に、ヒト誕生(約200〜600万年前)より遥か前から住みついて世代を交代しながら生きている無数の生物が共生しています。地球の誕生(46億年前)から遅れることほぼ10億年、生物は38億年前から厳しい環境に適応し、進化し、耐えながら生命を繁いできているのです。その数、数百万種以上、数え切れないほどの生物が相生相克しながら共生し生態系を造って辛うじて生きています。ヒトゲノムは利己的だと言われていますが、それは気の遠くなるような年月を経た生存の為の究極的適応の結果で、ただ物欲に駆られた現代人の独善的刹那的生き方を反映するものではありません。私たち人間も生態系の一構成員なのです。否、大宇宙の一点、自然の一点景に過ぎないのです。東洋医学の元祖生命の科学「アーユル・ヴェーダ」では【楚我一如】と解しています。即ち、物我一如です。

〈日本神道「かんながらの道」でも、次のように諭しています〉
① 人は一つの自然である。
我々は自然の如く真実であらねばならぬ
② 自然は健やかである。
我々も常に怠ることなく努めよう
③ 自然は造花である。
我々も頑なにならず、一生自分を進化させてゆこう
④ 自然は無限である。
我々も大海・虚空のごとく心胸を開こう
⑤ 自然は円通である。
我々も万物一体の妙理を学んで安心立命を深めよう

この《天の配剤》に唾し、自然の(Ecology & Homeostasis)を乱すものには因果応報、必ずその報いがやってくるのです。これが【身土不二】の仏教的解釈です。元々【身土不二】は仏教用語です。「今迄“身”即ち 人間が行った行為の果報(正報)は、私たち人間が拠り所としている地球【土】環境(依報)と切っても切れない関係にある」という意味です。今では、食育食養学の立場から「地産地消」や「スローフード」など、様々な意味で使われています。ここでは【医食(農)同源】と同義語と解釈してください。
すなわち、我々は「食べたものになる」のです。私達(正報)
【身体】の健康は地球(依報)を造る【土】から生まれる食物に依って保たれているのです。我々は、自分が育った風土とは切っても切れない深い絆で結ばれた存在なのです。この絆を勝手に切って、欲望のまま独善的に振舞えば、必ずその因果は我が身に応報されるのです。健康長寿を損なう由縁です。

土には、38億年前から生き継いでいる『土壌内細菌』が多数(数百万種)棲んでいます。彼らは宇宙の〈物質循環〉に欠かせない主役であることが判っています。
この一族が私たち人間の身体の表面:皮膚や粘膜に棲み付いて、私たちの体細胞と共生・コラボし、外界の様々なストレスから我々の心身を護っていることが解明されています。
この常在微生物の数は、腸粘膜だけで約400種1500兆個は下らないと言われています。即ち、最近話題の腸の花園(Bacterial flora)です。ここに共生する[マイクロバイオゾーム]は我々と共生して、第一線の〈生体防衛機構〉を形成し、私たちの健康維持に貢献しているのです。この地球(土)と腸(身)に常在する有益微生物を大事に育て、地球の健康と人の健康を同時に護ることが、今、私たちに求められている緊急の課題なのです。


有名なノーベル生物学賞受賞者J.Ledrbergは、西暦2000年(21世紀初頭)に、今までの研究を総括して、「ヒトはヒトゲノムとヒトマイクロゾームから成り立つ超有機体である」という概念を発表し、医者や生物学者などの科学者の注意を喚起しました。即ち、私たち人間(Homo-sapiens)は、父母から頂いたヒトゲノムに支配される60兆個の体細胞(Microcosm)だけで生きているのではなく、私たちを取り巻く宇宙(Macrocosm)と直接する皮膚や粘膜に常在している微生物(Microbiosome)と共生して生きている【生物共生体(Superorganism)】だと結論したのです。今では、この学説は科学者に真摯に受け止められ、生物学も医学も、この道に沿って軌道を修正しつつあります。しかし、残念ながら、未だに一般臨床医の間では周知されていないのが現状です。

20世紀の医療は、抗生物質の発見により飛躍的に進歩し、かつて猛威を振るった伝染病などの命取りの感染症は“ウィルス感染症”を残し影を潜めましたが、代わって【がんや血栓性疾患(心臓病や脳血管性疾患)】・自己免疫疾患(膠原病も含む)・アレルギー疾患・神経筋疾患・精神疾患などの“難病”が私たちの生活を脅かしています。

これらの疾患は、何も「細胞分裂や老化(代謝障害)」という【生物の原点】に関わる疾患であり、今までのような抗生物質や手術・放射線療法などの“排除の医療”では根本的には解決できない疾患であることが周知され始めています。まさに【身土不二】の原点に遡って「真の健康」とは何かを、この地球上に生きるもの全てを考慮しながら「生き生かされている人間」の立場から自らの健康長寿を追求する時代が来ているのです。

〈過ぎたるは、及ばざるが如し〉・〈治療は外から、治癒は内から〉・〈予防に勝る治療なし〉

生物進化の軌道を逸脱した近代人の行為(生活習慣)、すなわち飽食や不動などが、私たち現代人が苦しむ“難病”の原因だとしたら、皆さん、どうしますか?じっくり自分の生活が自然の摂理に則っているかどうか!検討してみてはいかがでしょうか。

日本人の死亡率トップ3:がん(細胞分裂障害)や心臓病・脳血管障害(血栓性疾患)は正にその適例なのです。さらに、今猛威を振るっているエボラ出血熱やテング熱、SARSなどの“ウィルス感染症”も例外ではないのです。皆、地球(土)と人間(身)の【生物の原点】に深く関わる問題なのです。

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